よくわかる 目の疾患

失明原因の上位を占める眼科疾患から順にわかりやすく解説します。

網膜血管閉塞症(もうまくけっかんへいそくしょう)

目の断面■ 網膜静脈閉塞症とは、網膜を走る静脈が詰まって血液が流れなくなる病気で、糖尿病網膜症と並んで眼底出血を起こす代表的な病気です。
50才以上の方 に起きやすく、さらに、高血圧と深い関連があります。静脈閉塞の起きた患者さんの80%は高血圧のある人です。

■ 網膜の血管のうち、網膜動脈は眼球の後方にある視神経の束の中を走ってきて、視神経乳頭から網膜全体に枝分かれして広がり、網膜の細胞に酸素や栄養分を 与えています。
血液は網膜静脈に戻り、網膜上を動脈とほぼ平行して走り、視神経乳頭で1本に集まり、視神経の束の中を走って、心臓へ帰っていきます。


■ 網膜動脈とほぼ平行して走り、網膜全体に枝のように広がっている部分で(網膜内の動脈と静脈とが交叉している部分で)網膜静脈の閉塞が起こった場合を「網膜静脈分枝閉塞症」と呼び、視神経乳頭部で静脈の根元が閉塞した場合を「網膜中心静脈閉塞症」と呼びます。

網膜静脈閉塞症のうち、8割以上が分枝閉塞症で、中心静脈が閉塞するのは確率的にには低いといえます。

1-1 網膜中心静脈閉塞症

網膜中心静脈閉塞症静脈は動脈と接しているため、高血圧からくる動脈硬化の影響を受け、血圧の急激な変動がきっかけとなり、あるいは血管そのものの炎症によって、静脈の根元が閉塞してしまう状態が「網膜中心静脈閉塞症」です。

根元の静脈が詰まるため、影響は網膜全体に及び、眼底一面に出血や浮腫(血管からしみ出した液体により網膜が腫れる状態)が広がり、黄斑部にも浮腫が強く起き、視力が障害されます。治療の難しい状態です。


■ 治療としては、血栓溶解薬や網膜循環改善薬の内服が用いられ、これにつづいてレーザー光凝固が施されます。 また「硝子体手術」といって、網膜に接して網膜を引っ張っている硝子体を取り除く手術が、黄斑部の浮腫を改善させる目的で行なわれることもあります。

この際、一般的に、白内障手術も併せて行なわれることが多く、最近では硝子体を除去し、硝子体の網膜に接する部分の膜(後部硝子体膜)を切除し、ステロイド(ケナコルト)を硝子体内に注入します。

■ 手術を希望されない場合で、他の積極的治療を希望される場合の次善の方法として、ケナコルトテノン嚢下注射が最近行なわれ始めています。 これは、プロスタグランジンやVEGFなどの黄斑部の浮腫を起こす原因物質を抑制する目的でできるだけ黄斑部に近い眼球の側方~後方にステロイド(ケナコルト)を注射する方法で、入院の必要はなく、外来で行えます。

■ その他、組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)による網膜中心静脈閉塞症や網膜静脈分枝閉塞症の治療も試みられています。
網膜中心静脈閉塞症に対して、網膜静脈の分枝からカニューラを挿入して直接t-PAを注入したり、視神経近くの網膜下に注入したり、硝子体内に直接入れる方法などが報告されていますが、これらの方法には硝子体出血や網膜裂孔などの合併症の報告もあり、注意深い観察が必要になります。

■ 網膜中心静脈閉塞症の場合は、多くは視力は0.1以下になってしまいます。(ただし若年者なら0.5以上の視力が残ることが多くあります)
黄斑部の浮腫のために視力が0.1以下になった症例に対して、硝子体手術を行なうことで半数以上の症例で浮腫が6ヶ月以内に消え、視力が改善したとの報告があります。
発症後7ヶ月以上たつと、視力の改善率は落ちると述べられています。

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1-2 網膜静脈分枝閉塞症

網膜静脈分枝閉塞症枝分かれした網膜動脈と網膜静脈とが交叉している部分で、動脈硬化を起こした動脈により静脈の血管内径が狭くなったり血液の流れがよどんで血栓が形成されたりして血流が途絶えて発症するのが網膜静脈の閉塞が起こった場合を「網膜静脈分枝閉塞症」です。

閉塞した部分から先の血管から血液があふれ出し、出血や網膜の浮腫を起こします。出血している部分の視野が欠けてしまいます。浮腫が網膜の中央の黄斑部に及ぶと視力が落ち、回復しづらくなります。


■ 治療には、内服やレーザー光凝固が行われますが、黄斑部の浮腫が強い時には、中心静脈閉塞の時のように硝子体手術が行われることもあります。

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2 網膜動脈閉塞症

心筋梗塞や脳梗塞のように、血管内壁にできた血液や脂肪などの固まりが動脈の血流を遮断して起きます。
急激な視力低下を自覚しますが、発症の前に眼の前が真っ暗になる暗黒発作がたびたび見られます。

網膜動脈閉塞症静脈閉塞のところに書いたように、網膜動脈は眼球の後方にある視神経の束の中を走ってきて、視神経乳頭から網膜全体に枝分かれして広がり、網膜の細胞に酸素や栄養分を与えていますが、枝分かれする前の網膜中心動脈が詰まると網膜全体に血液が届かなくなり、網膜の細胞が働けなくなり、視力が急激に落ちます。
この時、網膜は全体にむくんで白く濁り、動脈の著しい狭細と白線化がみられます。網膜中央の黄斑部中心窩だけは白く濁らず、正常に近い赤い色が残ります。


網膜動脈閉塞症網膜動脈が枝分かれした後の枝の部分が詰まるのが網膜動脈分枝閉塞症で、動脈が閉塞した部位の網膜は白く混濁し、その部分の視野が欠けますが、黄斑部が正常であれば視力は低下しません。


■ 動脈閉塞、特に中心動脈閉塞は眼科での救急疾患のひとつで、血流を少しでも早く再開できればより高い治療効果が得られます。
眼球マッサージや心筋梗塞発作時に使用されるニトログリセリンなどの亜硝酸薬、血栓溶解薬が処方されますが、高圧酸素療法が行われることもあります。

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