2011年11月 のアーカイブ

オリンパス

2011年11月9日

先月初めに、見ごたえのあるドラマで久々に爽やかな感動を覚えた。世界で初めて胃カメラを発案、いくつもの試作器を製作し、苦労の末に製品化に成功したオリンパスのドラマだった。

内科や耳鼻科では、内視鏡といえばオリンパス、日常診療で使いこなしているが、眼科では特殊な鼻涙管内視鏡以外は日常診療ではあまり用いられていない。真っ暗な胃の中を連続で撮影する手法をオリンパスが初めて手がけたのだということを、実はこのドラマを見て初めて知った。これは、OCT という光干渉波による断層撮影の原理を初めて考えたのが日本の山形大学の先生だということを知った時と同じくらいの、それ以上の驚きだった。

ところがところが、ドラマが放映されて一ヶ月もたたないうちに、バブル時代の財テクの莫大な損失を隠すための粉飾決算が発覚。ドラマ放映との絶妙のタイミングにこれまたびっくりさせられた。手作りの工作からスタートして幾多の困難を知恵と努力で乗り越えた技術の結晶、それを世に出した同じ企業が、40年後にはバブルに踊らされ、60年後には粉飾決算。それに関わった人物像は、時代もキャラも全く違う面々なのだろうが、今、残された社員さんたちはどんな気持ちでいるのだろうか。

愛社精神、という言葉がある。でも、最初に胃カメラを製作した人たちは愛社精神のために世界初の製品を作ったわけではなく、胃の病変をより効率よく発見するために作り、それが今のオリンパスという企業を作り上げた。損失隠しは、恐らく当初は優良企業に成長した自社への愛社精神にかられて行ったものであろうが、結果的には企業に大きなダメージを与えた。会社で仕事をする意味が愛社精神のみにすり替わると、社は間違った方向に進んでしまう。私は企業に勤務した経験はないのだが、もしも勤務するなら、全く基本的なことだが、仕事をする意味をきちんと理解している人間達がリードしている会社で働きたいと思った。

オリンパスの記事が紙面を飾るのを見るたびに、先月、鮮烈な印象を焼き付けたあのドラマが思い出されてしまう。